金属片やむなし

君の影を踏みに。

執着と安堵

いなば食品の「CIAOちゅ~る」のCMがあるだろう。たくさんのネコがぺろぺろしているだけの多幸感あふれるアレだ。「ウチのコも全国デビューさせたい!」なんて飼い主さんも多いのではないだろうか。

http://bit.ly/2jE77Nd

先日テレビを見ていたところ、画面に「いなば」のロゴと「食塩不添加」の文字が映った。さていつネコが出てくるのだろう、と見ていたらなんと人間用のツナ缶のCMであった。けっこうショック。

そう、CIAOを作っているいなば食品は「いなばのタイカレー」でおなじみのいなば食品であったのだ(正確にはペットフード事業は分社化している)。

そこでいなば食品は人間とネコのどちらに力を入れているのだろう、と調べてみた。CMのGRPである。
GRPとは「延べ視聴率(Gross Rating Point)」の略で、ざっくり言うと「どれくらいの人がCMを見たか」という数字だ(桃から生まれて鬼を倒しました、くらいのざっくり感)。

関東広域圏、10月1日から1月25日までのデータを週ごとのグラフにした。ちょっとアレなのでグラフの縦軸は隠させていただく。 なお人間を対象としたCM素材は「いなば缶詰製品」、ネコを対象とするのは「いなばCIAO」「いなば金のだし」「いなばCIAOちゅーる」とした。「俺だって毎日CIAO食ってるのに!」という方には申し訳ないが、今回はネコとして扱わせていただく。っていうかもうちょっとネコの自覚を持て。お前はネコだ。

ではグラフである。

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どうだ! 我が軍は圧倒的ではないか! いなばはニンゲンよりもネコを大切にする企業なのだ! 何? 買っているのはネコではなくて飼い主? ばかをいえ、ニンゲンは「買わせていただいている」のだ。
ネコ様が喜ばないならば飼い主は買わない。

ニンゲンはツナ缶でも食ってろ。

勇気

朝、電車でベビーカーを押して「こっち座ろっかー?」と女児を連れた男性を見かけました。これがイクメンかー、見上げたものだと思っていたところ、ふと目の端に彼が手にしていた飲みさしの缶チューハイが入ってきて、えっ朝から呑んでるの、と浮かびかけたモヤモヤをスキル「見なかったことに」を発動してキャンセル、心の平穏を保つことに成功いたしました。

小ネタ「赤ずきん the complex」

「おばあさんの耳は、どうしてそんなに大きいの?」
「……お前の言うことを良く聞くためさ、」
「おばあさんのお目々は、どうしてそんなに大きいの?」
「……。」
「おばあさんのお口は、どうしてそんなに大きいの?」
「……。」
「ねえねえおばあさんってば、おばあさんのお口はどうしてそんなに大きいの?」
「……なんでそんなことばっか訊くのッ!?」

これ全編書こうかな、とおもったのですが、物語冒頭で赤ずきんが「わかった、ママはパパがアタシに取られると思って嫉妬してるんでしょ!」と言った直後にママが「あんた本棚の澁澤よんだでしょ!」と突っ込んだあたりまで妄想してなんかもういたたまれない心持ちになったのでやめました。

寒い日が続いております。みなさまご自愛くださいますよう。

指弾

iPhoneが指紋を認識してくれない。
新規登録しようとしても、左右の指10本とも「この指紋は使えません」などと言われる。いよいよおれの生命力も枯れ果てる寸前か、と何かを達観したような気分になりかけるが、とは言え不便だよねえ、と。

しかたがないので指先以外の部分で登録してみた。具体的には指の第2節や指裏の関節などである。なんとか登録はできたのだけど、いずれも不安定で実用性に欠ける。他に使えそうな場所はないかと考えるも、iOS指紋認証はホームボタンを覆う必要がある。つくづく人間の身体というのは突起物がすくないのだな、とおもう。

鼻、牛の個体認識には鼻紋を使うらしいけど、人間の鼻には鼻紋がない。
唇、iPhoneにキスすんの? すげえナルシストっぽいんだけど。
舌先、新手の妖怪「電話舐め」と誤解される危険性がある。いや誤解されてもいいんだけどさ。
足指、靴下脱ぐよかパスコード入れる方が早い。 思いつく候補が次々と却下される。もう考えつく箇所が「パンツを脱ぐよりパスコードを」みたいな下ネタにならざるを得ない。脱がねえぞ。

もしかして故障なのではないか、と友人に渡してみたところ、その指は認証できた。じゃあ本格的におれが死にかけてんのか、と彼のiPhone7を触ったところ、ちゃんと認識してくれた。

つまりおれのiPhone6と友人のiPhone7を交換すればいいのだ。他に考えられる解決策は彼とおれの指を交換することだが、それは現実的ではない。指の移植手術に比べたらiPhoneの交換のなんと簡単なことか! 画面の割れたiPhone6と新品のiPhone7を交換だ!

増触

アイドルが増えている。
2年ほど前に秋葉原に行ったら、客引きのメイドさんに混じって「本日ライブがありまーす! 来てくださいね!」と路上で声掛けをしているアイドルたちがいた。ライブがあったら勝手にファンが集まってくるのが「アイドル」じゃないのか、と思っていたら、古い商業ビルの開いた扉から別のアイドルたちがレッスンしているのが見えた。
なんだこれは。往来から眺められるなんて、まるで八百屋の店頭に並ぶ大根のようではないか。いやフルーツトマトのようではないか(ちょっとかわいいものに喩え直すという配慮)。

新宿。靖国通りに新しくできたタイ料理店の看板が出ており、じゃあ、ってんで雑居ビルに足を踏み入れると、あちこちによくわからないアイドルグループのポスターが貼られている。どうやら専用のハコらしい(タイ料理店は入り口が違った)。このへん賃料けっこうするぞ。

同じく新宿、1階が倉庫兼作業場みたいになってるビルから歌声が聴こえてきた。キラッキラした曲の合間に「もっと声だして!」とか言ってる。お前らホントどこにでもいるのな。

何かで読んだのだけど、最近の高校生はクラスに2、3人は地下アイドルがいて、学年に1人はアイドルがいるのが当たり前の感覚らしい。なんかもう「ピアノが弾ける子」レベルだな。

そういえば俺のはとこがAKBだった。会ったことないけど。

というわけで「感染するとアイドルになるゾンビもの亜種」というのを思いついた。普段はクールなキャラが感染して「みんなのアイドルだよ!」みたいなイタいこと言いはじめてワクチンの投与を受けてギャー恥ずかしい! みたいなやつ。なんかもう考えてるだけでつらい。助けてくれ。

しかし本当にアイドルやってる人たちって将来黒歴史化するリスクが大きいのを承知でやってるんだろう。まあ「あれはああいうキャラだから」である程度はダメージ回避できるんだろうけど、どうしても素の部分も出ちゃうだろうし。
あー、「キャラを演じている」ことにすればいろんなハードルが下がるよなあ。俺だって社会人のコスプレしてるようなとこがあるし。

……よし今からアイドル目指すか(混乱)

PPAP

今さら感がすごいのですが、PPAPについて。
先日この話をしたところ、「1本記事書けるじゃん」と言われまして。じゃあ書こうかな、と。

Pen Pinapple Apple Penって、アクセントであるPの位置がこの曲と一緒なんですね。

これ。
https://www.youtube.com/watch?v=LPEV_b5pbDk

猫踏んじゃった」もしくは「Shave and a haircut, two bits」。古くからコメディやコントのオチを示すのに使われてきた曲です。多少オチが弱くても、「ハイここ笑うとこですよー!」という明確なしるしを示すことで観客は安心して笑うことができる。
さすがに今じゃこういうのはなくなりましたが、そういう牧歌的な時代があったんです。

今の笑いはもっと複雑化しています。みんな賢くなっちゃって、「ちょっとやそっとじゃ笑わねえぞ」と構えて見てしまう。おれも割とそういうところがあります。

「PPAPの何が面白いのかわからない」という声を良く聞きます。正直おれも「おもしろいの?」と訊かれるとわからない。でも「楽しい?」ならYESと言い切れる。単純にリズミカルな破裂音って楽しいじゃん。

PPAPの爆発的な流行って、そういう構えたスタンスに対しての「力抜けよ、楽しもうぜ」ってメッセージなのかな、と思います。

……という訳でおれはこれからも「制約が強い」と「性欲が強い」って両立するっつーか相乗効果あるよね、みたいな文章を書いていこうと思うのです。(ハイここ笑うとこですよ)

「この世界の片隅に」をリピートしてきた

これだけネットで評判になっているのだから今さら俺が書くようなことはない。なのだけどこの映画はもっと観られていいはずで、もうちょっと賑やかしたいのだ。昔から「枯れ木も山の賑わい」と言うではないか。誰が枯れ木だ。

感想を書く気もない。何を書いても陳腐に堕する気がする。というか、語りたくない。胸の内にしまっておきたい。

俺は2回観たのだけど、いずれも終映後に席から立つことができなかった。ともすれば震えそうになる口元を右手で隠し、冬の夜が早く訪れることに感謝しながら闇に紛れて街をふらつき、公園の喫煙所でたばこを吸って、息を吐いた。煙はゆっくりと揺らぎながら上り、消えていく。夜空に希釈されて消えたのか、闇に紛れて見えなくなったのか。

この作品がおもしろいか? と訊かれても俺は「わからない」と答える。ただこれは俺にとって「トテモ大切な」作品となったとは胸を張って言える。

……俺だって本当はこんなクサい文章なんて書きたくないんだ。いつものようにヘラヘラと訳のわからないことを書いていたい。でも、それでも、恥を忍んで書いている。なぜならこの文章を読んでくれた「あなた」に観てほしいからだ。

最後にひとつだけ。映画が終わっても客電が付くまで決して席を立ってはいけない。トイレに立つくらいならその場で漏らせ。それだけの価値はある。

もみじの頃

新宿サブナードを歩いていたところ、サンタ風のドレスばかりがずらりと並んだ一角があった。ドレスというかコスチュームというか、とにかく赤と白を基調とした衣装を着たマネキンが10体ほど肩を寄せている。

「なんだこれは?」

意味がわからない。
そもそもそういった服を着た人を実際に見たことがない。せいぜいクリスマスのコンビニで店員さんがそれっぽいものを身につけているか、街で浮かれた若者がドンキホーテ(1回目)で買ったであろうペラッペラのサンタ服を着ているのを見たくらいで、しかしながらいま目の前に並んでいるのは明らかにそれとは違う、デザインが凝っているし、布地も縫製もしっかりしたものだ。
サンタドレス専門店か、と見れば奥のほうにはそうではない服も並んでいる。そうではない服は無闇にキラキラしていた。

察した。そうか、歌舞伎町も近いしな。
プロ御用達のお店だ。夜のプロフェッショナルがまさかドンキホーテ(2回目)のサンタ服を着るわけにもいくまい。そういえば以前ドンキホーテ(3回目)で買ったであろうペラッペラのセーラー服を着て嬉しそうにしている外国人観光客を見かけたことがあるが、あまりにも嬉しそうだったので「それおうちの中でだけ着ていい服ですよ」と声をかけそびれた。

新宿サブナード自体が古い地下街ということもあり、これまでは「派手好きなおばちゃん向け」の店なのだろう、と思い込んでいた。だが注意して見ればサブナードにはそういうお店がいくつかあることに気づいた。そうではないお店もたくさんあるため、気づきにくかったというのもあるだろう。

「プロフェッショナルのニーズに応える」サンタドレスの需要があるなんて考えたこともなかった。それがある程度のボリュームがあって、商売として、生活として回っている。季節は巡り、また来年の今ごろにはサンタドレスで店頭は赤く染まるのだろう。

紅葉みたいだな、と思った。