金属片やむなし

君の影を踏みに。

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「本格的」とされるカレーとは何か。

日本人はカレーには「隠し味」を入れるものだと思い込んでいる。チョコレートやインスタントコーヒー、すりおろしリンゴにハチミツ、ウスターソース、醤油、バナナ…。とにかくなんでも入れてみようとするのだが、不思議なことにかたくなにスパイスだけは入れようとしない。

生活にスパイスが根付いていないのが原因なのだろうが、ちょっと待ってくれ。

東京のカレー店で「本格的」と言われるものは、クローブを多用している場合が多い。具体的な店舗は書かないが、口に入れた瞬間にブワっと甘い香りが広がり、ああまたこのパターンか、と思う。

多くの日本人はこのようなカレーを食べては「ああなんて本格的なのだろう」と感動する。クローブエキゾチックな香りに包まれながら遠く異国の地に想いを馳せ……ちょっと待て、異国ってどこだ?

実はこのテのカレーはインドにはない。パキスタンにもないし、ネパールにもタイにもスリランカにもインドネシアにもない。日本にしか、日本人が想像する国にしか存在しないのである。

想像の国と言えば桃源郷であろうか。しかし桃源郷ではクローブというより八角の香りがしそうである。ならば蓬莱か。それもやっぱり五香粉のにおいがしそうだ。中華圏から離れて……ユートピア? だってあれ書いたのイギリス人だろ、とりあえずビネガーかけとけって感じじゃん。

となると、該当するのはネバーランドであると結論付けざるを得ない。我々がてっきりクローブだと思い込んでいたのはティンカーベルの粉であり、やはり妖精というのは甘い香りがするのだ。そしてティンクの粉を浴びれば飛べるんだよ! とビチャビチャ本格カレーまみれになったところで飛んでいるのは頭のネジくらいのものであり、おやどこからかカチコチと時計の音が……ワニだ! ワニが来た!

ともあれカレーというのは総じてうまいものである。日本風のカレーもインドカレーもタイにネパールスリランカ、世界中のカレーはうまい。

ただ一軒だけ、確実に「まずい」と言い切れるカレー屋を知っている。タイに欧風、インドカレーと幅広いラインナップでどれもまずい。想像できますか「生臭いカレー」って。しかも食べ放題、まずいものがこれでもか、いやこれでもくらえ! と迫り来る恐怖。右を見ても左を見てもまずいものに囲まれて、もはや現実ではないんじゃ、そうかここがネバーランド! ワニが来たぞっ!

さすがに店名は挙げられないので、ご興味のあるかたはご連絡ください。ご一緒しましょう。