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金属片やむなし

君の影を踏みに。

Black Cat

中野に「黒猫」というメイドカフェ的な店がある。プライバシーに配慮して一部磨りガラスだが、ガラス張りの店なのでそういかがわしいものではないようだ。 その店の前に、コーヒーの美味さをアピールする看板が立っていた。如何にこだわっているかが事細かに書かれており、普通の喫茶店でこれやったら客がドン引きするレベル。
いやいやいやいや、メイドカフェのコーヒーが本格派って明らかに訴求点おかしいだろw コーヒーが美味いからってメイドカフェに通う奴なんかいないしw むしろコーヒーなんてインスタントでもいいような店じゃないか、なんだったら泥水でも「ご褒美」って喜ばれるかもしれないのにw と思わず写真を撮ってしまった。

ところが、だ。
気付いてしまったのである。コーヒーが美味いという理由でメイドカフェに通う人は「いる」のだ。
昔、5000円払えばメイドさんがビンタしてくれるサービスがある、というのを見て爆笑した覚えがある。まあネタ消費の一種だろう、調子のいいオタクが注文して「もっと強く!」とかハシャいだブログを書けばみんな幸せ、みたいな。
ただメイドカフェがコーヒーの美味さをアピールするのはこれとは違う。
もし誰かが「ここのコーヒーが美味くて通ってるんですよ」と言ったら、君は多少目を泳がせながら「お、おう」と答えるだろう。そしてこう思うはずだ、「ちょっとやめてくれ、そんなの誰も信じないよ。別にメイドさんが好きなのは全然構わないし個人の自由だけどバレバレの言い訳するから逆に痛々しいのであって、っていうかリアクション取りづらいわ。そもそもなんで俺にこんな告白したし。秘密を共有して距離つめようとしてくんなし。ぼくときみはともだちかどうか、もういちどかんがえてみよう!」
……さすがに後半は考えすぎになってしまったが、まあ他人からは「(嘘であると)バレバレの言い訳」と捉えられるだろう。しかしこれを嘘ではないと信じている者がひとりだけいる。それは誰か。正解はCMの後で!

(CM)
肉を食べるなら鶏! 牛には負けない! 我々鶏の消費にご協力ください!
(CMおわり)

……こういう気味の悪い文章を差し込むのはおれの悪癖なのでお気になさらぬよう。

さあ正解だ。この言い訳を嘘ではないと信じているのは誰か。……それは、言い訳をした本人である。
「まさか!」と思われるかもしれないがこれは確かである。どういうことか。

あるところにメイドカフェに興味深々の男がいた。しかし彼は生来プライドが高く、潔癖であったことからメイドカフェとは性的消費であり容認しがたいと考えており、敷居をまたぐことはなかった。ところがある日、店頭に「こだわりのコーヒー」とあるのを見かけ、「そうかそんなにこだわっているのか、じゃあ飲んでみようかな」と思う。もちろんそんなものは欺瞞なのだが、心理的なハードルはぐっと下がる。「だってコーヒーが美味いんだから、仕方ないじゃないか」人間は言い訳に弱い。言い訳さえあればとことん自分を甘やかそうとする。大義名分さえあれば人すら殺せることは数々の戦争が物語っているではないか。それに比べればメイドカフェで「ニャンニャン」なんつって痴態を晒すことなど平気の平左であろう。

今ひとつ納得されていない向きもあろう。そこで我々のよく知る、類似した例を挙げる。
「ケーキは太るからダメだけど、コーヒーならいいよね」というエクスキューズで女子にホイップクリームを売りつける企業、そう、スターバックスである。

……長くなったがここからが本題である。おれはここから文書を暴走させるために長々と書いてきたのだ。

つまり、スターバックスとはメイドカフェなのだ。両者におけるコーヒーは媒介に過ぎない、本質的価値はスタバにおけるホイップクリーム、メイドカフェの萌えである。その証拠に、ホイップクリームも萌えもどちらも限りなく甘いではないか。普段スイーツ女子を「スイーツ()」とか言って揶揄しているミソジニーがかったオタクも蓋を開いてしまえば似た者同士なのである。お前ら仲良くしろ。
メイドカフェではMacBook Airを開いてドヤリングすべきなのである!

すこし整理しよう、ホイップクリームとは油脂である。つまりメイドカフェにおける「萌え萌えキュン」に流れる貨幣はオイルマネーであると言える。近ごろは原油安で産油国に混乱が生じているが、オムライスにケチャップでハートを書いて「おいしくなーれ!」と言えば全てが解決するのだ。
日本のエネルギー政策もこれで解決できる。現在は原発停止を受けて火力発電で補っているが、その高コストが問題となっている。なんのことはない、「お帰りなさいご主人さま」で発電すればいいのだ。これで解決!!

……そんでまあ、「黒猫」に本物の黒猫がいたらおれも通うかもしれない。あの店ができる前、あのあたりには本当に黒猫の兄弟がいたんだよ。