金属片やむなし

君の影を踏みに。

Meet the Meat

学生のころ闇鍋をやったところ参加者全員が肉を持ってきたことがある。若さってそういうことだ。
ちなみに野菜のない鍋はわりと地獄である。しゃぶしゃぶの食べ放題で肉ばかり頼む奴はいない。だんだん皆の顔が青白くなり、発する言葉が減っていく。地獄ではあるが、この中に罪人は一人もいない。ただ若かったのだ。「闇鍋は絶対!」

そういえば去年だったか、池袋の中華料理店に行った。なんでも巨大な羊肉を出すとのこと、どんなものやらと頼んで出された肉を見て爆笑した。
でかい。繰り返す、でかい。文字通りの肉の山である(後で調べたら骨つきながら1.5kg程らしい)。これをやっつけるというのはなんというか肉のアイアンマンレースである。挑む者にしか見えない景色があるのだ。我々はこれを片付けねばならぬ。そう、我々である。健啖家の友人が同行しているのだ。心強い。

切り分けられた骨つきの羊肉が網の上で焼かれていく。焼かれていく、というかおれが焼く。焼けたら同行者の皿に乗せる。もちろん自分の皿にも乗せる。ちょっとだけ相手の皿に乗せた数が多かったかもしれない。なぜならおれはビールを飲むのに忙しかったからだ。ビールならしょうがない。

「ぐるぐるさん全然食ってないじゃん!」

同行者からのクレーム。食ってるじゃんホラ、と骨を見せたが、そのうち数本は同行者本人の皿から拝借したものだったことを告白しておく。
でもまあ最初っからそのつもりだったよね。おれがそんなに食える訳ないじゃん。無理をする気も一切なかったし、っていうかどちらかというと観戦? みたいな?

同行者の顔が次第に青白くなり、口数が減っていく。如何に健啖家と言えども肉は山ほどあるのだ。しかもおれ戦力外だし。
繰り返す。これは肉のアイアンマンレースである。挑む者にしか見えない景色が(どうやら)ある(らしい)のだ。山は高いほど、見える景色が広くなる。挑み、挑み続け、己の限界を突破した者だけが辿り着ける境地というものがあるらしいけどビールうめえ、でもそろそろ飽きてきたし店変えようぜ早く食っちゃってよ?

あのとき同行してくれた友人へ。
また行こうな。もっとでかいのあるらしいぜ。