金属片やむなし

君の影を踏みに。

灼熱散歩

目黒天空庭園という場所がある。首都高大橋ジャンクションの上に作られた庭園で、都会のオアシス的なアレらしい。オアシスと言っても兄弟仲が悪いバンドのほうではない。

散歩の途中で通りかかったので、とりあえず入ってみることにした。入り口が複数あるようで、ひとまずは最上階である9階へ。エレベーターを降りドアをくぐると猛暑日の太陽が照りつける庭園が。

「あー、こんな感じなんですね」

都内に暮らしていても、普段から緑を渇望している訳ではない。東京は世界でも有数の緑化率が高い都市である。最悪スーパーにでも行けばイクラでも緑は見られる。ゴーヤとかズッキーニとか。鮮魚売り場に並ぶイクラだって緑を見られるのだ。ほらイクラって眼球っぽいじゃん。なんの話だ。

まあ草だの木だのを眺めるのも悪くはないかもしれない、でも今はそれよりもジリジリと無遠慮に肌を灼きつけてくる日照から逃れたい。これにて目黒天空庭園の見学は終了!

早々に屋内へ戻る。
自販機で買った麦茶が身体に沁みわたる。ああこれが都会のオアシス!(ただし屋内)
人類の叡智はクーラーを生み出した。日差しは厳しく、文明はやさしい。やさしさと涼しさに包まれて体力気力ゲージが回復する。

「3階にも天空庭園の入り口があるようですが」

せっかくなので3階部分も見てみることにする。なんというか、博物館の前庭みたいな風景が延々と繰り返される感じである。

「だいじょうぶですか、これ本当に我々が求めているものですか。我々には必要がない感じじゃないですか」

ぶつくさと文句を言いながらも歩みを進めていく。

「こう、道をクネクネ曲げることで限られたスペースを少しでも広く見せようって魂胆なんですね。リソースの使いかたが効率的、と意地悪くほめておきましょう」
「『オーパス夢ひろば』って書いてありますよ。自分でopus名乗っちゃうのって正気とは思えないんですがいいんですかこのセンス」

身体に暑さが蓄積されるにつれ口さがなくなってくる。そもそも税収の多いであろう目黒区が金にあかせて無理めの緑化運動をするってのがバブルの発想っぽくていけ好かない。っていうか固定資産税収入すごそうだな目黒区、資産持ちいいなあ! おれも不労所得ほしい! 金の卵産みたい!

東屋があった。
東屋というのもまた文明である。日差しは遮られ、都会の風が吹き抜けていく。正直きもちがいい。次第にクールダウンしていく身体。

「なかなかいいところじゃないですか目黒天空庭園

思考は肉体から自由ではいられないのだ。
しばらく風に吹かれていると、思考から獣性が消えていく。

「まあ自分で『オーパス』って言っちゃうネーミングセンスはアレですが」

まだちょっと冷やしたりないようだ。もうちょっと歩いて屋内に戻ろう。
屋内へと続く出口が見えてきた。

「あれ、9階と同じ構造なんですね。そっくりだ」
「既視感があるくらい」
「ホントそっくりですね。これ9階にもあったし」

「…おれこの自販機で麦茶を買った気がするんですけど」
「まあ同じ商品構成なんでしょう」

「…このトイレに入った気がするんですが」
「トイレなんてどこも一緒です」

「…ひッ!?」
「どうしました?」
「エレベーターに、9階って書いてある…ッ!」

「…これ、永遠に出られないやつじゃないですか?」

現実にはALL YOU NEED IS KILLではなかった。目黒天空庭園は緩やかに登りながら円弧を描き、3階から9階へと続いていたのであった。暑さで思考がやられていたとは言え、天然で勘違いをしていた。おかげでとても楽しい体験ができた。

ちなみに後から見たら『オーパス夢ひろば』はO-path Yumehirobaであった。それカタカナで書かれたら絶対わかんないから!