Blind
最近の小学生は背が高いというのを聞いてそうなのか、でも小学生なんて見ることがないからと返したところ、いやあなた会社のすぐ近くに小学校があるじゃないですか、との指摘を受けた。
目から鱗である。そうだったそうだった、記憶を辿ると不規則運動を繰り返すちんまいのがワラワラしてるの見てるわ。歩いててぶつからないように注意してるあれ、そういえば「小学生」なんだ。
認知バイアスってすげえのな。おれの中で「小学生」って優先度が低くて、見てるはずのものがなんにも見えてなかった。他にも「見えてない」ものがたくさんあるのだろう。
爪を切っている。
夜に爪を切るのは縁起が悪い、という迷信がある。でもおれはもう何年も日中に爪を切った記憶がない。夜のしじまに爪を切る。パチン、パチン。
文明という灯は暗がりを追いやった。ガス灯、水銀灯、LED灯。これらは暗がりに潜む不確かなもの、たとえば妖や妖怪といったものを袖にして、健全であることを是とした。天狗も河童も照射されては消えるしかない。
このごろ街なかを歩いていて、人目につかない暗がりを探すことがある。往来にはそれなりに暗がりがあり、そこには文明の灯りを逃れた妖の類が潜んでいるはずだ。きっと天狗も河童も息を潜めている。でも彼らを目にすることはないのは、もしかしたらおれが暗がりでハグやキスをするのに精一杯で、認知に歪みがあるためなのかもしれない。
きみも気づいてないだけで、すぐ隣に地縛霊とかいるかもしれない。
見えるものと見えないもの、見たいものと見たくないもの、それから意識してないもの。いろいろあるよね。