金属片やむなし

君の影を踏みに。

頼むから静かにしてくれ

新宿の四文屋に行った。
うるせえ。とにかくうるせえ。パリピみたいな人種がやたらと大きな声で話していて、その騒音にかき消されてまともに会話ができない。店全体のボリュームがぶっ壊れている。全員がフルボリュームで、全力で声を張っている。

セミは地面の下で12年過ごして、晴れて成虫になって空を飛ぶようになるのだけど、その寿命は約1週間と言われている。まあそれはガセなのだが、成虫でいられる期間が短いのは確かだ。ために全力で声を張り上げて交配相手を探す。命をつなぐ、遺伝子を残すため必死で「ぼくはここにいるよ!」とアピールする必要がある。セミの声が常にフルボリュームなのは必然なのだ。

パリピも声がでかい。その本能が声を張り上げさせる。なぜなら奴らには、セミの遺伝子が入っているからだ。いつだってフルボリューム! 人造人間セミ人間! お前らの寿命も1週間でありますように! ウェーイ!!

立川で居酒屋に入ったところ、ウルトラマンのフィギュアがたくさん並んでいるほか、何かがシャア専用だったり変なポップが貼り出されていたりしてなんというか頭の悪いヴィレッジヴァンガードのような店であった(別にヴィレッジヴァンガードが頭が良いとは言っていないので注意)。

客層は学生がほとんどのようで、とてもとてもチャラい若者たちがとてもとてもウェイウェイしていたためこちとら完全にアウェイアウェイである。人生いつだってアウェイなんだ。
幸い彼らとは離れた席に通されたのでそこまでうるさくは感じなかった。それでも向こうの世界はまぶしいな、とドロリとした目をしてすみっこでボソボソと酒を啜っていると、突然店内の照明が落ちた。すわ停電、と色めき立った直後にミラーボールが回り出し、ハンドマイクというか拡声器を手にした店員がアジテーションを始める。

「お楽しみのところ失礼いたします! 本日はみなさんにお知らせがございます! なんと今日、今日は当店の常連さんである○○さん、立川一のイケメン○○さんの! お誕生日でーす!」

全力で知らんがな。

その後も店員は15分以上も客を煽り続け、アルコールヘッドの客たちのテンションは右肩上がりとなった。店員と客はよくわからないコールアンドレスポンスをし、おれのジョッキは空になり、視界の隅をコソコソと乳繰り合う男女がかすめ、知らない若者が挨拶をしたりお礼を言ったりウェイウェイウェイウェイ、本当にアウェイだな! とげっそりしてきたところで、

「それではこれより店員一同が、全ての席の、全てのお客様とお祝いの乾杯をしに回らせていただきます! 今日の出会いに感謝して! それではみなさん、カンパーイ!!」

もう苦笑するしかない。完全に君たちの勝利、未来は君らの手の中だ。おれは席まで回って来た店員と杯を合わせ、「さっき頼んだレモンサワーまだ来てないんだけどな」と思いながら空になったジョッキを飲み干すふりをした。